SHARE
SHARE
人的資本経営が注目されている理由とは?定義やメリット、手順やポイントを解説
人的資本経営 |
2023年3月期決算より、上場企業を中心とした大手企業に対して、人的資本情報の開示が義務化されました。それもあり、人的資本経営に対してより注目が集まっています。
本記事では、人的資本経営の定義や実施の手順、ポイントについて解説します。人的資本経営に興味がある場合は、ぜひ参考にしてください。
目次
人材を資本と捉える「人的資本経営」とは
そもそも、人的資本経営とはどのような意味なのでしょうか。ここではまず、人材を資本と捉える「人的資本経営」について解説します。
人的資本経営とは
経済産業省は、人的資本経営を次のように定義しています。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
参照:経済産業省 人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~
つまり人的資本経営とは、人材を資源(コスト)として消費せずに、「資本」として位置づけて人材に投資することで、中長期的に自社の企業価値の向上を目指す経営手法を意味します。
人的資本の開示にまつわる動き
人的資本の開示にまつわる主な動きは、次のとおりです。
・ISOが情報開示ガイドラインを設定
・人材版伊藤レポート
2つの人的資本の開示にまつわる動きについて、以下で順番に解説します。
ISOが情報開示ガイドラインを設定
2018年12月に、ISO30414(人的資本に関する情報開⽰のガイドライン)が制定され、人的資本に関する企業報告指標として、11領域・49項目の規格が定められました。
企業報告指標の11領域の内容は、次のとおりです。
・コンプライアンスと倫理
・コスト
・ダイバーシティ(多様性)
・リーダーシップ
・企業文化
・企業の健康・安全・福祉
・生産性
・採用・異動・離職
・スキルと能力
・後継者育成計画
・労働力
このように、2018年には人的資本に関する情報開⽰のガイドラインといった、人的資本の開示にまつわる大きな動きがありました。
人材版伊藤レポート
ISO30414の制定は世界的な動きでしたが、2020年9月に経済産業省が「⼈材版伊藤レポート」を発表し、企業の取り組むべき方向性を明確に示しました。長期的に企業価値を高めるための「人的資本経営の重要性」や、「人材戦略に求められる3P・5Fモデルのフレームワーク」などが、紹介されています。
人的資本経営に注目が集まっている理由
人的資本経営に注目が集まっている主な理由は、次の3つです。
・市場の成熟
・多様な働き方へのニーズ
・ESG投資・SDGsの広がり
以下で、1つずつ解説します。
市場の成熟
1つ目には、技術革新による市場の成熟が挙げられます。第4次産業革命(ロボットやAIによる業務最適化)による技術革新において、市場が成熟し、競合との差別化が難しくなりました。そこで、新たな価値の創出において「人」の重要性が高まり、従業員が価値を発揮できる「人的資本経営」が求められています。
多様な働き方へのニーズ
近年、多様な働き方や人材の多様化が進んでいる点も、人的資本経営に注目が集まっている理由の1つです。多様な働き方や人材の多様化を推進するにあたって、これまでの人材管理では多様化に追いつけません。そのため、人材のパフォーマンスを最大限に引き出すための「人的資本経営」が、必要とされています。
ESG投資・SDGsの広がり
ESG投資やSDGsの広がりも、人的資本経営に注目が集まっている理由の1つです。ESG投資(環境、社会、ガバナンス=企業統治)では、「Social(社会)」に人的資本が含まれており、SDGs(持続可能な開発目標)においても、目標8の「働きがいも経済成長も」が人的資本に関連しています。
ESG投資やSDGsの広がりによって、企業の持続可能性(サステナビリティ)に対する取り組みへの注目度が高まると共に、人的資本経営も年々重要視されています。
人的資本開示義務化で企業に求められる開示情報
2023年3月期からは、上場企業を中心とした大手企業約4,000社に対して、人的資本開示が義務化されました。企業に求められる開示情報は、次のとおりです。
・人的資本、多様性に関する開示
・サステナビリティに関する開示
・コーポレートガバナンスに関する開示
以下で、それぞれ順番に解説します。
人的資本、多様性に関する開示
企業に求められる開示情報の1つに挙げられるのが、人的資本や多様性に関する情報の開示です。女性活躍推進法などに基づいた「女性管理職比率」や「男性の育児休業取得率」、「男女間賃金格差」などの記載が求められます。
サステナビリティに関する開示
サステナビリティに関する企業の取り組みも、企業に求められる開示情報の1つです。有価証券報告書などに、「サステナビリティに関する考え方及び取り組み」の記載欄が新設されました。「ガバナンス」及び「リスク管理」は必須記載事項であり、重要性に応じて「戦略」や「指標及び目標」も記載する必要があります。
コーポレートガバナンスに関する開示
コーポレートガバナンスに関する情報の開示も、必須事項の1つです。具体的には、取締役会や指名委員会・報酬委員会などの活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況)、内部監査の実効性、政策保有株式の発行会社との業務提携などの概要を、開示する必要があります。
人的資本経営に取り組むメリット
人的資本経営に取り組むメリットは、次の4つです。
・生産性の向上
・従業員エンゲージメントの向上
・企業ブランドの向上
・投資家による評価の向上
ここでは、それぞれのメリットについて、1つずつ解説します。
生産性の向上
人的資本経営に取り組むと、人材への投資により従業員がスキルアップし、業務の生産性が向上します。人材の能力やスキルの可視化により、適材適所の人員配置も可能となり、企業の利益拡大につながる可能性も高められるでしょう。
従業員エンゲージメントの向上
生産性の向上だけでなく、従業員が成長を実感することで、モチベーションが高まることにもつながります。結果的に、企業に対する帰属意識も高まり、離職率の低下なども期待することが可能です。
企業ブランドの向上
人的資本経営に取り組み、人材に積極的に投資する企業には、優秀な人材が集まります。積極的な人材への投資や教育は、ステークホルダーにも好印象を与え、社会的信頼が高まるため、最終的に企業ブランドの向上が見込めるでしょう。
投資家による評価の向上
人的資本経営を実施することで、持続的な成長が期待できる企業として、投資家からの評価向上が期待できます。投資家からの評価が向上することで投資額の増加が期待でき、人材への投資がさらに充実し、事業拡大や企業成長にもつながるでしょう。
人的資本経営を実践する流れ
人的資本経営を実践する流れは、次のとおりです。
1.経営戦略と人材戦略を紐づけたゴールの設定
2.KPI(重要業績評価指標)の設定と施策の考察
3. 施策実行と効果検証、改善の実施
順番に確認してみましょう。
1.経営戦略と人材戦略を紐づけたゴールの設定
まずは、現在の課題と目指す方向性のギャップを把握し、経営戦略に対する共通認識を形成します。人材戦略と経営戦略を紐づけ、自社が目指すゴールを設定しましょう。
2.KPI(重要業績評価指標)の設定と施策の考察
次に、未来志向や経営戦略との整合性、自社らしさを軸にKPIを設定します。ツールの活用や情報開示だけが目的となってしまわないように、気をつけましょう。
3. 施策実行と効果検証、改善の実施
人事データ、エンゲージメントサーベイ、KPIの達成状況などによる効果検証を、定期的に実施してください。効果がある部分とない部分を把握し、PDCAサイクルを回して改善につなげましょう。
人的資本経営を実践するうえでの重要ポイント
人的資本経営を実践するにあたって重要なポイントは、次のとおりです。
・全社で同じ方向を向いて進める
・情報開示を目的にしない
・未来を見据えて実践する
以下で、1つずつ解説します。
全社で同じ方向を向いて進める
人的資本経営は、広報や財務などを含めた全部署が、同じ方向を向いて進める体制を整える必要があります。人材に関することなので、人事部のみで策定・実行をするケースは少なくありません。しかし、資産として捉えるためにも、関係者間で認識を合わせて全社で推進することが重要です。
情報開示を目的にしない
収集した情報やデータを振り返らず、情報開示のためだけに人的資本経営を進めないようにしましょう。情報開示のみを目的としてしまうと、人的資本経営を推進する目的から外れてしまいます。なぜ情報を開示するのか、なにを目的として企業価値を高めるのかを、常に意識して考えることが大切です。
未来を見据えて実践する
人的資本経営を実践するにあたって、未来をきちんと見据えることも重要です。人材戦略と経営戦略の紐づけを徹底して、人的資本経営を推進しましょう。先に定めた経営戦略の実現に必要な人材戦略を策定し、未来から遡って道筋を考える、バックキャストの手法が効果的です。
効果的な人的資本経営の事例
ここでは、効果的な人的資本経営の事例として、旭化成株式会社と伊藤忠商事株式会社の事例を紹介します。
旭化成株式会社
旭化成株式会社は、事業計画に応じた専門人材の機動的な確保や博士人材を活かした、企業経営全体のイノベーションを推進しています。同社では、施策や社内体制、内容、狙い、独自指標も含めて開示しているのがポイントです。
伊藤忠商事株式会社
伊藤忠商事株式会社は、企業価値向上につながる少数精鋭での労働生産性を重視した、人材戦略を推進しています。また、バーチャルオフィスの導入によって、従業員の成長や人脈の広がりなどをサポートし、従業員の働きがいも高めています。企業理念に基づく人材戦略における重要指標を開示し、進捗を管理している点も特徴です。
まとめ
今回は、人的資本経営の基本情報や注目が集まっている理由、人的資本経営に取り組むメリットなどについて解説しました。人的資本経営は、人材を資源として消費せずに資本と位置づけ、人材への投資で中長期的に企業価値の向上を目指す経営手法です。多様な働き方へのニーズやESG投資・SDGsの広がりによって、注目を集めています。 株式会社オンアドは、従業員のお金の悩みを金融のプロが解消する「お金の福利厚生サービス」を提供しています。従業員のお金の悩み解決を通じた人的資本経営の実践にご関心があれば、お気軽にオンアドにご相談ください。