人的資本経営におけるKPIの重要性|設定するポイントや活用事例も紹介

人的資本経営 |

人的資本経営を実践するうえで、KPIの設定は欠かせない要素です。人的資本経営において、KPIの重要性やKPIを設定する際のポイント、具体例を知りたいと考えている人も多いでしょう。

本記事では、人的資本経営とKPIの関連性や、KPIの具体的な設定方法を解説します。人的資本経営にKPIを活用している企業事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。

人的資本経営とKPIの概要

まずは、人的資本経営とKPIの概要について、それぞれ詳しく解説します。

人的資本経営

人的資本経営とは、人材を資本と捉える経営手法のことです。従来の経営手法では、人材を消費する「資源」と捉えることが一般的でした。一方、人的資本経営は、人材を投資の対象である「資本」と捉えることによって、個々の能力を最大限に引き出す経営手法です。これにより、企業の成長につなげることを目的としています。

KPI

KPIとは、「Key Performance Indicator」の略称です。日本語では「重要業績評価指標」と訳され、目標達成のプロセスにおいて、達成度合いを定量的に測るための指標を表します。つまり、KPIとは、企業として目指すべき最終目標を達成する過程における、中間目標のことです。また、KPIを設定する際には、「問い合わせ数◯件」のような形で、定量的な目標を設定する必要があります。

人的資本経営でKPIが重要な理由

人的資本経営を実践するためには、KPIの設定が不可欠です。経営戦略を見直すにも、具体的な目標がない状態では、やみくもに施策を実施するしかありません。達成すべき定量的な目標=KPIを設定することによって、従業員がどのような行動をすべきかや、目標までの道筋、現状の成果などが把握可能になり、より精度の高い戦略を実現しやすくなります。

人的資本経営で重要視される4つのテーマ

一般的に、人的資本経営では次の4つのテーマが重要視されます。

・人材育成

・エンゲージメント

・ダイバーシティ

・コンプライアンス

それぞれのテーマにおいて、具体的なKPIを設定して取り組むことが重要です。以下で、4つのテーマについて、詳しく解説します。

1.人材育成

人的資本経営を実践するためには、従業員のスキルアップが欠かせません。そのため、人的資本に対する投資は、人的資本経営において重要なテーマといえます。

人材育成を行うにあたって、KPIを設定すると効果的な項目の例は、以下のとおりです。

・研修参加率

・複数ジャンルの研修受講率

・人材開発や研修の効果 など

2.エンゲージメント

エンゲージメントとは、双方間の深いつながりを表す言葉です。ビジネスにおいては、従業員が企業に愛着を持ち、互いに成長しながら絆を深める関係を指します。エンゲージメントは、従業員の貢献意欲や人材の定着率と関係する重要な指標です。つまり、従業員のエンゲージメントが低い状態は、大切な資本(人材)が流出するリスクが高いといえるでしょう。

エンゲージメントを表す指標は、主に「エンゲージメント総合指標」と「エンゲージメントドライバー指標」の2種類です。エンゲージメント総合指標とエンゲージメントドライバー指標には、それぞれ次のような違いがあります。

エンゲージメント総合指標:会社に対する印象を総合的に数値化したもの

・eNPS(Employee Net Promoter Score:自社を友人や知人に勧められる度合い)

・継続勤務意向

・総合満足度 など

エンゲージメントドライバー指標:エンゲージメントを向上させると考えられる要因に関する指標

・組織ドライバー(職場の人間関係や環境など)

・職務ドライバー(職務に対する満足度など)

・個人ドライバー(個人の資質による業務への影響)

3.ダイバーシティ

ダイバーシティは、日本語で「多様性」を意味します。組織のダイバーシティを高めることは、イノベーションの活性化につながります。企業が従業員の個を尊重しているか、という観点でも重要な指標です。

たとえば、次のような項目についてKPIを設定することが多いでしょう。

・性別による給与の差

・従業員、経営層の属性別比率

・男女別の育休取得者数 など

4.コンプライアンス

コンプライアンスは、直訳すると「法令遵守」ですが、企業に求められるコンプライアンスには「倫理観」や「公序良俗」という意味も含まれるのが特徴です。コンプライアンスの指標が高い企業は、従業員や取引先を公正・適切に扱っていると考えられます。

コンプライアンスでは、次のような項目においてKPIを設定することが多いです。

・コンプライアンス研修を受けた従業員の割合

・人権問題が生じた件数

・コンプライアンス違反に関する苦情件数 など

人的資本経営におけるKPIの具体例

前述した「人材育成」「エンゲージメント」「ダイバーシティ」「コンプライアンス」の4つのテーマにおける、KPIの具体的な設定例を紹介します。

人材育成・キャリア研修を実施し、3年後までに研修参加率90%以上を目指す
・20XX年までに、DX人材を80名育成する
エンゲージメント・5年後までに、会社に対する総合満足度を平均2.5点から3.5点にする
・エンゲージメントサーベイの「コミュニケーション」や
「イノベーション」のスコアを、3年後までに80以上にする
ダイバーシティ・20XX年までに、男性従業員の育休取得率60%以上を目指す
・今後10年間で、女性管理職の比率を40%以上にする
コンプライアンス・コンプライアンス研修を実施し、参加率95%以上を維持する
・5年後までに、コンプライアンス違反件数ゼロを目指す

人的資本経営のKPIを設定する際のポイント

人的資本経営のKPIを設定する際は、次のポイントをおさえることが大切です。

・最初に「KGI」を設定する

・自社の状況や課題を明確にする

・独自性を持たせる

・優先度を決定する

・人材データを整理する

それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説します。

最初に「KGI」を設定する

KGIとは、「Key Goal Indicator」の略称です。日本語に訳すと、「経営目標達成指標」という意味になります。簡単にいうと、企業の経営戦略におけるゴールのことです。はじめに成約件数や売上などの最終的なゴール(KGI)を設定しておくことで、KPIのより具体的で明確な設定が可能となります。

自社の状況や課題を明確にする

自社の状況や課題を明確にしておくことで、より効果的なKPIを設定できるようになります。その際、達成可能な目標かどうかを意識することも重要です。また、会社の状況や課題は、会社によって異なります。そのため、他社の事例やトレンドはあくまで参考とし、影響されすぎないよう注意しましょう。

独自性を持たせる

人的資本経営におけるKPI設定のゴールは、企業価値の向上です。上記と同様に、経営戦略・計画は会社によってそれぞれ異なります。そのため、人的資本経営のKPIを設定する際には、独自性を持たせて自社に合ったKPIを独自に設定しましょう。

優先度を決定する

KPIを複数設定したら、それぞれの優先度を決定しましょう。優先度が高いKPIとは、自社にとっての大きな課題または経営戦略・計画に大きく影響するものです。優先度が高いものから取り組むことで、人的資本経営を効果的かつ効率的に実現しやすくなります。

人材データを整理する

自社の人事課題に合わせたKPIを設定するためには、人材データが必要です。個々のスキルや能力、経験などのデータを収集し、適切に管理するよう心がけましょう。人材データを整理することによって、より自社の人事課題を明確化できます。

KPIを設定する際の注意点

KPIを設定する際は、次の3点に注意することが大切です。

・シンプルでわかりやすい目標にする

・数値化やデータ化が可能な目標を設定する

・目標達成の期限を設定する

それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説します。

シンプルでわかりやすい目標にする

KPIは、従業員全員で共有する必要があるため、わかりやすくシンプルなものが適しています。従業員全員で足並みを揃え、同じ方向に進んでいくためにも、わかりにくい抽象的な目標は避け、なるべく具体的な目標の設定に努めましょう。

数値化やデータ化が可能な目標を設定する

KPIには、数字やデータで表せる目標を設定します。定性的な指標を設定するケースもまれにありますが、基本的には定量的な指標が望ましいでしょう。数字やデータで表せる目標を設定することで、目標や現状の成果をより具体化できます。

目標達成の期限を設定する

KPIの達成率を高めるためには、期限を設定することも重要です。優先度を踏まえて、それぞれのKPIごとに目標達成の期限を設定しましょう。

人的資本経営におけるKPIの活用事例

ここからは、KPIの設定により、人的資本経営を実践している企業の活用事例を紹介します。

資生堂

全従業員の80%以上を女性が占める資生堂では、女性活躍支援の一環として「女性管理職比率を50%にする」という目標を掲げています。女性リーダー育成塾を開講するなど。マネジメントや経営スキルを学べるプログラムを実施しており、実際に開始6年で、受講した従業員の49%が昇進を遂げています。

伊藤忠商事

伊藤忠商事では、「労働生産性の向上・企業価値の向上」「健康力向上」「持続的な能力開発」をはじめ、6つのテーマから構成されるサイクルを柱とした、人材戦略を展開しています。

「中国語人材を増強する」「早朝勤務を奨励し、20時以降の残業を原則禁止する」など、テーマごとの目標を掲げ、それぞれに施策を実施しているのもポイントです。2017年度末には、中国語人材が目標である1,000人に到達し、定期開催している朝活セミナーも好評を博すなど、着実な成果を上げています。

味の素

味の素は、エンゲージメントを重要指標の1つに位置づけ、エンゲージメントサーベイの活用や、健康経営の推進に取り組んでいます。同社が掲げる「ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)」という方針を、従業員が自分ごと化できるよう、複数の施策を展開している点も特徴です。毎年のエンゲージメントサーベイで進度を見える化し、発見した課題を翌年の計画に反映させています。

まとめ

人的資本経営を実践するためには、KPIを設定することが大切です。人材育成やダイバーシティなど、人的資本経営で重要とされるテーマについて具体的な目標を設定すれば、より効果的な施策を実施できるようになります。今回紹介した具体例や企業事例を参考にしながら、ぜひ自社の課題やビジョンに合わせた目標を設定してみてください。

人的資本経営を実践するなら、「ファイナンシャル・ウェルネス」に取り組むこともおすすめです。ファイナンシャル・ウェルネスとは、経済的なストレスがなく、安心して生活を楽しむことができる状態を指します。従業員のお金の不安を解消することは、会社への満足度向上にもつなげることが見込めるでしょう。

ファイナンシャル・ウェルネスの実現は、株式会社オンアドにお任せください。金融相談のプロが、資産形成に関する的確なアドバイスを行い、お金の悩みの解消をサポートします。まずはお気軽にお問い合わせください。


この記事を監修した人

株式会社オンアド

株式会社オンアドは野村ホールディングス、千葉銀行、第四北越銀行、中国銀行の4社により設立された投資助言会社です。「すべての人が最善のアドバイスにより、理想の未来をかたちにする」というビジョンのもと、商品販売を一切行わず、アドバイスに特化した新しい金融サービスをオンライン完結でご提供します。

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