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人的資本開示とは?開示が義務化された7分野19項目や方法、注意点を解説
人的資本経営 |
2023年3月期決算より、上場企業を中心とした約4,000社を対象に、人的資本情報の開示が義務化されました。これを機に、開示情報をステークホルダーへのアピール機会として活用する企業も増加しています。
この記事では、人的資本の意味や開示する目的について解説します。また、人的資本情報を開示する方法や、開示が必要な7分野についても解説するため、人的資本開示に対する理解や実施に役立ててください。
目次
人的資本開示とは
そもそも、人的資本開示とは、何をどのように開示するのでしょうか。下記2つの項目に分けて詳しく解説します。
- 人的資本
- 人的資本開示
人的資本とは
人的資本とは、個人の能力やスキル、才能、技術などの特性を「資本」と捉える考え方です。人材への投資、つまり、従業員の育成や採用に力を入れることで、中長期的な企業価値の向上につなげる経営手法を人的資本経営と呼びます。ESGやSDGsとのかかわりにおいて、投資家の目線からも注目が高まる要素となっています。
人的資本開示とは
人的資本開示とは、企業が行う人材への投資に関する情報を公表することです。上場企業を中心とした大企業では、2023年3月期より開示が義務化されました。従業員の能力開発や働き方改革、ダイバーシティ経営の推進状況などを開示することで、企業の人的資本経営に対する姿勢を示します。企業の中長期的な成長の可能性を評価する際に注目される要素のひとつとなります。
人的資本情報を開示する理由と目的
人的資本情報を開示する理由と目的は、大きく分けて以下の2つです。
- 人的資本の価値向上
- ESGへの注目
ここでは、人的資本を開示する理由や目的について、詳しく解説します。
人的資本の価値向上
近年、無形資産の重要性が高まっており、多くの企業が人的資本を競争優位性の源泉と認識しています。企業が持続的な成長を実現するためには、無形資産である人材への投資が不可欠であるという認識が高まっています。人的資本経営に積極的に取り組み、その情報を開示することで、ステークホルダーに対して企業の持続可能性や成長可能性をアピールすることが可能です。
ESGへの注目
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字で構成された言葉で、サステナビリティ経営の重要な要素です。人的資本は「Social」に該当する項目とされ、その情報開示はESG経営の取り組みを周知する効果もあります。
投資家に投資先として選定されるには、ESG経営に努めていることが大切なポイントの一つです。人的資本の情報開示は、自社のESG経営への取り組みをアピールするための機会の一つと言えます。
人的資本開示の義務化
以下では、人的資本開示の義務化について詳しく解説します。人的資本開示の義務化において注目すべきポイントは、以下の2つです。
- 2023年3月期決算企業から義務化が開始
- 義務化対象は約4,000社
2023年3月期から義務化スタート
2023年3月期より、上場企業を中心とした大手企業に対し、人的資本の情報開示が義務化されました。有価証券報告書で「人材育成方針」や「社内環境整備方針」などの情報を記載する必要があります。さらに、「従業員の状況」の記載では、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差など、多様性の指標に関する開示も求められています。
義務化対象は約4,000社
人的資本の情報開示が義務化された対象は、金融商品取引法第24条で有価証券報告書を発行している、上場企業を筆頭とした大企業約4,000社です。各企業は、「人材育成方針」や「社内環境整備方針」などの情報を記載した有価証券報告書を提出することが求められます。投資家はこの有価証券報告書等に記載された情報を通して、その企業の評価や支持を行うことが可能です。
人的資本情報の開示が必要な7分野・19項目
人的資本情報の開示が必要な分野は、以下の7分野です。
- 人材育成
- エンゲージメント
- 流動性
- ダイバーシティ
- 健康・安全
- 労働慣行
- コンプライアンス
それぞれの開示項目について、順に解説します。
人材育成
人材育成は、人的資本開示において重要な分野の1つです。開示項目には、「リーダーシップ」「育成」「スキル・経験」があります。企業は、人材育成の研修時間やコスト、参加率、リーダーシップ育成、人材開発の効果など具体的な情報を開示しなければなりません。
人材育成への取り組みや必要な投資を明確に示すことで、企業の持続的な成長と価値創造に対する姿勢を伝えられるでしょう。
エンゲージメント
エンゲージメントは、従業員の仕事への熱意や積極性を表す指標です。企業は職場環境や業務内容、働き方などでの従業員の満足度を評価し、開示することが求められます。高いエンゲージメントを得ることで、生産性や創造性の向上、離職率の低下などにつなげることが可能です。そのため、エンゲージメントは企業の持続的成長にとって重要な要素となります。
流動性
人的資本の流動性に関する開示項目は、主に「採用」「維持」「サクセッション(後継者育成)」の3つです。企業には、人材の確保と定着に向けた取り組みの開示とともに、採用人数や離職率、それらにかかるコストなどの数値情報の提供が求められます。
また、将来の経営を担う後継者の育成状況を示す後継者準備率も、開示事項の1つです。これらの情報は、投資家が企業の持続的成長可能性を評価するうえで、有用な情報となるでしょう。
ダイバーシティ
ダイバーシティとは、「多様性」を意味する言葉で、性別、人種、年齢、宗教など、多様な属性を持つ人材の活躍を尊重する考え方です。企業には、従業員や経営層の属性別比率や格差、育児休業の取得・復職・定着率などの情報開示が求められています。企業の持続的成長には、多様な人材が能力を発揮できる職場環境の整備が不可欠です。
健康・安全
企業にとって、従業員の心身の健康と安全を守ることは重要な義務です。健康・安全の分野には、「精神的健康」「身体的健康」「安全」の項目が含まれます。具体的に含まれる取り組みは、労働災害の発生状況や死亡者数、医療・ヘルスケアサービスの利用促進策、安全衛生研修などです。
労働慣行
労働慣行は、労働者と雇用主の間で確立された慣習や実践で、労使関係や労働環境に重要な役割を担っています。開示項目として挙げられるのは、「労働慣行」「児童労働/強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」などです。
開示情報には、団体交渉協定の対象となる従業員割合、賃金の適正性、福利厚生の内容・種類・対象者などが求められます。労働に関する項目は、特に企業の社会的信用に関わる重要な要素です。
コンプライアンス
コンプライアンス(法令順守)は、企業が法律を順守し、社会的規範や倫理観に基づいた行動ができているかを示す情報です。ハラスメントの実態調査や内部通報制度の状況、コンプライアンス研修を受けた従業員の割合、苦情件数、コンプライアンスに関する説明などが、開示項目に含まれます。
企業は法令遵守のみならず、社会的な倫理観に則った活動ができているかを示すことが大切です。
人的資本開示を進める方法
それでは、人的資本開示を進めるには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。人的資本開示を進めるには、以下4つのステップが重要です。
- 開示項目を選定する
- 開示データの収集・数値化を行う
- KPI・目標を設定する
- PDCAをまわして改善を繰り返す
以下で詳しく解説します。
開示項目を選定する
人的資本開示を進めるには、前述した7分野と19項目を参考に、ステークホルダーのニーズを分析し、適切な情報開示を行うことが重要です。これにより、ステークホルダーとの相互理解を深め、企業価値の向上につなげられます。
開示項目を選定する際は、自社のビジョンや理念、ビジネスモデルに沿った取り組みなど、魅力的に見せられる情報の開示を検討しましょう。また、開示しないことがリスクにつながるといった可能性も考慮したうえで、項目を選定することも重要です。
開示データの収集・数値化を行う
計測ツールを活用しながら社内データを収集・分析し、現状を把握することが重要です。正確なデータを集め、過去との比較や長期的な変化を開示しましょう。
取り組んだ施策の結果を過去実績と合わせて示し、データ分析の数値化を行うことで、ステークホルダーへの説得力のある開示につながります。また、開示データの明確化によって、自社の強みや改善点が見えてくることもあるでしょう。
KPI・目標を設定する
人的資本開示では、自社のビジョンや経営戦略に沿ったKPIと目標の設定が欠かせません。KPIは項目ごとに細かく設定し、可視化することが大切です。目標は、自社が目指す具体的な姿を描き、課題解決につながる施策と結果のつながりをもたせましょう。課題と目標・行動の関連付けで、適切な人的資本項目の選択や、ステークホルダーへの論理的説明が可能です。
PDCAをまわして改善を繰り返す
人的資本経営の目標達成には、PDCAサイクルによる継続的な施策の実施と改善が不可欠です。目標と現実のギャップを埋めるため、関連部門との議論から取り組み内容を決定しましょう。
施策の進捗や結果は、現場と共有したうえで、フィードバックを施策に反映させることが重要です。このプロセスと結果を人的資本情報として開示し、ステークホルダーの意見も取り入れながら、PDCAをまわします。改善を繰り返しながら、人的資本経営の目標達成を目指すことが大切です。
人的資本開示の注意点
人的資本開示において、注意すべきポイントは、以下2つです。
- 開示情報のストーリー性
- 独自性事項と比較可能性事項のバランス
順に解説します。
開示情報にはストーリー性が必要不可欠
人的資本情報の開示だけでは十分ではなく、経営戦略と人材戦略を統合したストーリー性が重要です。自社の課題を抽出し、成長に必要な人材や具体的行動を明確化しましょう。人材育成の内容と結果を数値で開示し、課題と行動を結びつけることで、適切な情報開示とステークホルダーへの説明が可能になります。
独自性と比較可能性とのバランスが大切
人的資本情報の開示では、独自性のある事項と比較可能な事項をバランスよく開示することが重要です。自社のビジョンや戦略に沿った魅力的な情報を選択し、ステークホルダーが求める内容を的確に開示しましょう。この際、自社の特色を最大限に引き出すのに効果的な情報を開示することが大切です。
人的資本の取り組み開示事例2選
人的資本経営開示を行うにあたって、以下では、Unipos株式会社とTOPPANホールディングス株式会社の事例を2つ紹介します。
Unipos株式会社
Unipos株式会社は、eNPS(従業員の職場に対する推奨度)のサーベイ結果とKPIの目標値を開示しました。従業員1人ひとりのスコアにも注目して施策を決定しています。また、人的資本戦略テーマを判断基準とすることで、施策や社内メッセージに統一感をもたせています。
同社は、理想像と現状の差分から戦略テーマを設定し、人・組織の変化に柔軟に対応しながら、全体像を整理しているのが特徴です。
TOPPANホールディングス株式会社
TOPPANホールディングスは、グローバル連結による情報管理体制の強化に努めています。同社は、各社から統一的な情報を収集するために定義表を作成し、伝え方や収集方法について検討しました。
これにより、自社グループの実態が把握可能となり、女性管理職比率向上などのギャップ解消の道筋が明確化されました。同社では、グローバル事業展開とESG深化のため、国内外各社への丁寧な説明や上層部からのメッセージによって、協力体制の構築を図っています。
まとめ
2023年に義務化された人的資本開示を自社の企業成長に活かすには、適切な項目選定とデータ収集、KPI・目標設定、PDCAサイクルによる改善に取り組む必要があります。従業員1人ひとりの成長と活躍を支援することで、人的資本経営の実現に近づくことが可能です。 株式会社オンアドでは「従業員のお金の悩み解決」を通じて人的資本経営の実践をサポートする、「お金の福利厚生サービス」を提供しています。人的資本経営の具体的な施策をご検討の方は、ぜひオンアドにご相談ください。
この記事を監修した人

株式会社オンアド
株式会社オンアドは野村ホールディングス、千葉銀行、第四北越銀行、中国銀行の4社により設立された投資助言会社です。「すべての人が最善のアドバイスにより、理想の未来をかたちにする」というビジョンのもと、商品販売を一切行わず、アドバイスに特化した新しい金融サービスをオンライン完結でご提供します。

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